諸外国と比べても「働きすぎ」の傾向にある日本ですが、ワークライフバランスの充実を選択することができる世の中を目指すため、「働き方改革関連法」によって企業の労働環境が見直され始めました。
また昨今は、新型コロナウイルスの影響により、テレワークなどが一気に広まって働き方が多様化してきました。
そのようななかで、昔から労働環境の改善で中心に議論されているのは残業時間についてです。
残業時間の上限規制や、規制を破った時の罰則などについては多くの働く人たちが気になる事柄ではないでしょうか。
この記事では、規定によって定められた残業時間の上限や上限時間を超えた場合に受ける可能性のある罰則について紹介いたします。
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残業時間とは法定外労働時間のことを指す
日頃の仕事において「残業」「残業時間」などと言う表現を使うことが多いですが、そもそも残業時間とはどう言った定義なのでしょうか。上限や規制を確認する前に言葉の定義をおさらいしておきましょう。
残業は「法定内労働(法定内残業)」と「法定外労働(法定外残業)」とに分かれます。
それぞれ何を指す言葉なのか確認しましょう。
法定内労働(法内内残業)とは11
会社や職場では、就業規則などで1日の所定労働時間が決められています。それとは別に、国が労働基準法で「1日8時間かつ週40時間」という法定労働時間を定めています。1日の所定労働時間が8時間未満の場合、その所定労働時間を超えて8時間まで働くことが「法定内残業」です。
所定労働時間を超えた勤務時間のことを「残業」と呼ぶ人もいるかもしれませんが、法定労働時間内での業務は正確には残業とは呼べません。
例えば朝9時から17時までの所定労働時間で、間に1時間の休憩があった場合には労働時間は7時間となり、18時まで仕事をしたら残業時間は1時間ですが、それは法定内残業となります。これらは労働基準法で定められた法定労働時間内での勤務となります。
法定外労働とは
労働基準法で定められた1日8時間かつ1週40時間の法定労働時間を超えて働くことです。上記の朝9時から17時までで休憩が1時間の勤務時間例で言うと、19時まで仕事をした場合に、法定内残業が1時間、法定外残業時間が1時間と言う計算になります。つまり、労働時間から法定労働時間を引いた差が法定外残業時間となるということです。
一般的に労働基準法上で問題となったりするケースは、この法定外残業となります。そのため、残業時間とは法定外労働時間のことを指すと覚えておくと良いでしょう。
労働基準法で定められている残業時間の上限
残業時間が法定外労働時間のことを指すとわかったところで、その上限を見ていきましょう。
労働基準法では1日8時間かつ1週40時間の法定労働時間を定めています。この労働時間を超えて、従業員を働かせるためには36(サブロク)協定の締結、届出が必要になります。
36協定を結んだとしてもいくらでも働かせて良いと言うわけではありません。協定の中で、残業時間の上限が定められています。
36協定では、残業時間は原則として「月45時間・年360時間」までとなり、臨時的な特別な事情がない限りこれを超えることはできません。
「管理監督者」と残業
管理監督者の場合、36協定で定められているような残業時間の規定は適用されません。
これは法定労働時間である1日8時間かつ1週間40時間労働の上限はもちろんのこと、月45時間・年360時間の残業時間の上限も適用されません。
ただしあくまでも上限がないだけであって、いくらでも働かせても良いとか、勤怠管理をしなくて良いというわけではありません。健康に悪影響が出ないようしっかりと管理をすることは会社の義務であります。
なぜ残業時間の上限が管理監督者には適用されないのでしょうか。
それは、労働基準法上の管理監督者とは経営者と同じか、それに近い強い権限を持っており、給与などの面でもその地位にふさわしい、ほかの一般社員とは明確に異なる待遇を受けているため、自分の就業時間も裁量を持って決めることができるから、とされています。
ここで注意が必要なのが、いわゆる「管理職」と法律上の「管理監督者」には大きな違いがあるという点です。
企業が独自に決定する管理職の役職が法律上の管理監督者に該当するわけではなく、職務内容、責任と権限、勤務形態、賃金などから総合的に判断されるので、「管理職」と「管理監督者」は異なるものだと覚えておきましょう。
2021年で見直しされた残業時間の上限におけるポイント
先述した「月45時間・年360時間」の残業時間の上限は2019年に大企業から、2020年には中小企業も含めたすべての企業で適用されるよう法改正が進められてきました。これらは時間外労働を減らし、労災などから労働者を守るためのものでしたが、2021年7月に20年ぶりに労災基準認定が見直されています。
見直されたポイントは大きく下記の4つです。
- 長期間の過重業務の評価に当たり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化
- 長期間の過重業務、短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し
- 短期間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化
- 対象疾病に「重篤な心不全」を追加
簡単にポイントをお伝えすると、労働時間以外の負荷要因がより一層重視されることにより、労災認定がより柔軟になっています。過労死してしまうほどの労働時間を定める基準は変更されなかったものの、「過労死ラインを超えていなくても労災と認める場合があること」と「労働時間以外の負担要因の追加」を示しています。
労働時間と36協定について
労働時間については、労働基準法や36(サブロク)協定でしっかりと規定が定められています。
それでは、具体的にどのような規定があるのか紹介いたします。
36協定とは
36(サブロク)協定とは、時間外・休日労働に関する協定ですが、残業時間の上限とも密接に関係します。
労働基準法では、法定労働時間として1日8時間/1週40時間と、週1日を法定休日として定められています。これは具体的なイメージでお伝えすると、閑散期・繁忙期に関わらず、始業9時だった場合、休憩を1時間とって18時までには必ず帰る、さらに1週間で1日は完全に休みという働き方です。
この時間を超えての労働、または休日労働をさせる場合は、労働基準法第36条に基づく労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署長へ届け出る必要があります。この36条に基づいているためサブロク協定と言われています。
時間外労働の基本は月45時間・年360時間と決められている
ただし36協定を締結したからといって、先述の労働時間を超えていつまでも労働させても良いというわけではありません。一般的な労働者の場合「月45時間・年360時間」という上限のもと時間外労働が可能になります。これ以上の時間外労働をさせる場合、特別条項を締結し届出なければなりません。
時間外労働が月45時間を超えてしまう場合
繁忙期やプロジェクトが締切りS間近などの特別な事情があり、どうしても月45時間以上の残業をしなければならない場合も出てきます。その時は、年6回以内までであれば45時間の時間外労働をすることが認められています。
逆に言うと、年6回を超えてしまうと労働基準法違反になります。また、加えて下記の通りの制限があります。
- 1ヶ月の法定時間外労働と法定休日労働を合わせた時間の上限は100時間未満であること
- 2ヶ月ないし6ヶ月の時間外・休日労働時間の平均は月80時間以内であること
- 1年の時間外労働の上限は720時間以内であること
たとえば、5ヶ月間時間外労働を90時間した場合、残り7ヶ月は45時間以内であれば時間外労働しても良いというわけではなく、720-90×5=270時間までしか時間外労働をしてはいけない、という計算になります。
このように細かく法律によって労働時間については基準や上限が定められています。
ちなみにこの36協定は先述した法定労働時間と法定休日を超える労働をさせる場合には、たとえ従業員がたった一人だったとしても届出る必要があるため、あなたの会社でもほとんどの場合36協定が結ばれています。
残業時間の上限として「過労死ライン」が定められている
「過労死ライン」とは、日本においては、健康障害リスクが高まるとする時間外労働時間を指す言葉となっています。これは労働災害認定において労働と過労死・過労自殺との因果関係の判定に用いられます。わかりやすく言い換えると、病気や死亡・自殺に至るリスクが、長時間労働に原因があると認定する基準のことだと言えます。
労働者を守るために残業時間の上限として法律で定められているものが過労死ラインですが、その残業時間は具体的にどれくらいなのか確認していきましょう。
過労死ラインとして定められている残業時間
過労死ラインとしてみなされる残業時間も定められています。細かく紹介いたします。
その目安は残業時間は6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働とされています。1日8時間勤務だとすると1か月の労働日を20日として月160時間の労働に加え、毎日4時間以上の残業をし続けることになります。
朝9時から夕方17時が定時の会社だとするとお昼の休憩を1時間取ったとして、毎日夜の22時まで働いている計算になります。当然1週間の間に2日をしっかり休んでいる前提の計算ですから、休日出社などがある場合は、さらに残業をしていることになりますので要注意です。
また「1ヶ月間で100時間の時間外労働」あるいは「1か月間でおおよそ100時間の残業時間」となっている場合にもこの過労死ラインに該当します。1日8時間勤務だとすると1か月の労働日を20日だとした場合、1日5時間以上の残業をして、13時間以上の勤務が続く状態のことを指します。
ご自身の勤怠管理を見て上記の労働時間の水準になっていないかチェックしてみてください。
この水準まで達している方は心身共に非常に疲れている状態となっており、一般的には危険な労働時間になっていますので、必ず休息を取るなり、働き方について上司や人事に相談するなど対策を取ってください。後述しますが、この残業時間に該当していない方でも、上限に近い水準まで残業が多くなっている方は注意が必要です。
残業と過労死ライン、その罰則については次の記事で詳しく解説していますので、あわせて参照ください。
会社勤めの人は自分の身を守るために残業時間への意識を高めよう
周囲の雰囲気や自分の業務量によって残業することが当たり前になっている環境にいると、ついつい残業時間については管理が疎かになりがちです。また、管理職の方は残業時間の上限がないからと言って労務管理を怠ってはいないでしょうか。
過度な残業をすることで、自分では気づかないところで心身ともに大きな負担がかかっていることがあります。実際に過去、過労死の労災判定が認められた案件を見てみても年齢などに大きな偏りはありません。また、一定のラインを超えて残業をしていると、途中までは苦しかったのに、何故か夜遅くなってから頭が冴えてきてついつい残業していた結果過労死になってしまったと言うケースも報告されています。
仮に過労死ラインまでの時間外労働になっていかなかったとしても、短期間の間に集中して労働してしまっている場合や、仕事のプレッシャーなどによる精神的なストレスを多く抱えている場合は要注意です。管理職の方は上司との人間関係、部下との人間関係、仕事の責任など多くのストレス要素がありますので、特に気をつけてください。
また、会社からの指示もしくは自分の判断で労働時間を適切に申告しない方がいらっしゃいますが、労働時間を実態に沿わない形でしていると本当に何かトラブルがあった時に、労災認定されない危険性もあります。あなたの身を守るためにも休息を取り、過度な残業をしないように意識を高めましょう。また、時間外労働時間については自身で適切に勤怠管理して申告をするようにしましょう。
まとめ
36協定で定められている残業時間の上限や、労働時間について紹介してきました。
これらのルールは全て労働者を守るために法律によって定められているものです。残業の上限時間を超えると健康被害を受けるリスクが高まり、最悪の場合、過労死してしまうほど心身にダメージが蓄積されてしまいます。
自分自身のためにも労働時間の管理を行っていくようにしましょう。
今後、働き方改革が進むことでより個々人の裁量に委ねられるようになったり、法律も変わったりするかもしれませんが、その都度しっかりと内容を押さえておくことをおすすめします。