「どのような言動がセクハラにあたるんだろう?」
「職場で話されている会話が、セクハラのような気がするんだけど、どうなんだろう?」
「セクハラしないために気をつけることはなに?」
こういった疑問をお持ちの方に向けて、セクハラと認定される行為や代表的な判例などを紹介していきます。
セクハラ行為は、加害者本人がセクハラと思っていないケースも多く、どういった行為・言動がセクハラになるのかを知っておくのがとても重要です。
自分が被害にあったときはもちろん、加害者にならないようにこの記事を読み進めていただけると幸いです。
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セクハラの事例は時を経てより複雑なものになっている
1989年に福岡県の出版社に勤務をしていた晴野まゆみさんが勤務先の上司を相手取り、セクハラを理由とした民事裁判を起こしたことが、日本でセクハラが広く認知されるようになったきっかけの1つです。
この民事裁判をきっかけに、それまで日本の職場で何気なく行われてきた会話や行動が「もしかしたらセクハラになるのでは?」と話題になり、多くのテレビや雑誌で取り上げられました。その年の新語・流行語大賞の新語部門・金賞を「セクシャルハラスメント」が受賞し、世間一般に広く認知されるようになりました。
1989年から30年以上経った現在もセクハラはなくなっておらず、2020年に厚生労働省がおこなった職場のハラスメントに関する実態調査によると、過去3年間に顧客等からセクハラを受けたことのある人の割合は10.2%となっています。
ただしセクハラの被害者は被害に遭ったことを相談しづらく、問題が表面化しづらい傾向にあります。そのため実際の件数は調査結果以上にあると考えられます。
セクハラの事例は時を経てより複雑になってきており、なかには当事者同士にしか分からないようなこともあります。
例えば以下のようなケースは現在は、セクハラと見なされる場合が一般的ですが、会話の文脈、関係性によってはそうではないと見なされる場合もあります。
職場で名前を「ちゃん」付けで呼ぶ
「デートとかするの?」といったプラベートへの質問を行う
「今日も髪型かわいいね」「スタイルがいいね」と外見について言及する
「これだから女(男)は~」といった性別による偏見を表明する
相手が不快に感じれば即セクハラになるわけではありませんが、上記のような内容を職場で発言した場合はどうでしょうか。本人及び周りの人たちからすると、不快に感じるかも知れません。
このように何を言ったらセクハラ、何をしたらセクハラという明確な基準を設けるのが難しいため、「一般的な女性(男性)の感じ方」が判断基準の1つにおかれます。
より詳しい説明は次の項目から見ていきましょう。
セクハラの基準と、セクハラしないための注意点
セクハラとは「セクシュアルハラスメント」の略称で、その言葉の通り「性的な嫌がらせ」のことを指します。
一般的にセクハラとして認定されるかは、「相手が不快と感じるか」どうかを焦点となります。ただし、法的にセクハラと認定される基準は「平均的な女性労働者の感じ方」「平均的な男性労働者の感じ方」を基準が適当とされています。
そのため、相手が不快と感じたら、すぐに法的にセクハラと認定されるわけではありません。
しかし、平均的な女性・男性労働者の感じ方といっても、感じ方が定量化されているわけではありません。人によってはセクハラにならず、人によってはセクハラになる、この部分の判断がセクハラの事例を難しくさせている一因でもあります。
また、セクハラが発生する状況はさまざまで、公の場で行われることはあまりありません。密室であったり個人間のやり取りであったり、周りから見えづらい状況なのもセクハラの事例を難しくさせている1つの要因です。
本人は軽い冗談のつもりだった、というのもセクハラ加害者からよく聞かれる言葉です。冗談のつもりでも、相手や周囲から「不快」と感じられたらセクハラになり得ます。
自分自身が気付かない内にセクハラ加害者にならないためにも、性別や年齢、役職や立場に関係なく「人として対等」である意識を持った発言や行動をとるように気を付けましょう。
セクハラが起こる背景には、相手のことを対等に見ていない場合が多いです。例えば相手が尊敬している上司のご子息だった場合、対等以上に丁寧に相手と接する人がほとんどではないでしょうか?
そういった相手であればセクハラになり得る言動をしないのに、職場ではセクハラになり得る言動をしてしまうのは、相手のことを対等に見ていないためです。
自分自身の発言や行動をする際、「人として相手を対等に見ているか?」自分を見つめ直してみましょう。
セクハラの定義と具体的な振る舞い
ここでセクハラの定義と具体的な振る舞いを見ていきましょう。
「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」(男女雇用機会均等法 第11条)
「他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」(人事院規則 第2条1項)
具体例を挙げると、下記のような行為はセクハラと認められます。
性的な関係を求め拒否をされたからといって、業務上で嫌がらせをする
ボディタッチを時々する
職場で性的な話題を周囲に聞こえる声量で話していたり性的なからかいをしたりする
上司や先輩から頻繁にプライベートで食事に誘う
男女雇用機会均等法第11条にある「就業環境が害されること」は特に注目したい部分です。
たとえ1度だけであっても、セクハラ行為はセクハラを受けた本人にとっては「就業環境が害されること」に該当する可能性があるためです。
具体例に挙げた内容は、どれも就労環境を害する恐れのある振る舞いと捉えられます。
セクハラと思われないために気を付けた方が良いこと
セクハラと思われないようにするためには、日頃からセクハラに繋がってしまうような振る舞いをしないようにするのと、自分自身の言動に気を付けることが必要でしょう。
職場で自分が上司の立場の場合や、相手とのパワーバランスが自分の方が上だと感じている場合など、自分ではセクハラだと思っていないことでも、相手からするとセクハラと受け取られてしまう場合があります。思っている以上に職場での職務や立場が与える影響は大きいと認識しましょう。
部下や年下の方は、目上の人・上司からの誘いは断りづらいものです。
具体的に気を付けたいポイントとしては、職場で性的な発言をしない・相手の気持ちを思いやることです。職場で盛り上がれる会話の内容は、性的なものでなくて他にもあるはずです。
人にはそれぞれ趣味嗜好があるように、性的な話題を好まない方もいます。性的な話題をしたときに、周囲も楽しそうに話を聞いていると思ったのなら、話を合わせているだけかもしれません。
セクハラはたとえ1度だけであっても、就労環境に害をなされたと感じられればセクハラと見なされる場合があります。
自分自身の言動や気配りからセクハラは未然に防げます。日頃から自分の振る舞いには気を付けましょう。
代表的な判例から見る、セクハラの事例と社会的認知
ここからは、世間が持つセクハラへの認識を変えていくきっかけになった代表的な判例・事例を見ていきましょう。
2018年11月判例「加古川市の男性職員によるセクシュアルハラスメントの事案」
停職処分取消請求事件は、地方公共団体の男性職員が勤務時間中に訪れた店舗の女性従業員に、わいせつな行為等をしたとして懲戒処分(停職6月)とした事案です。
内容は、地方公共団体の男性が勤務時間中にコンビニエンスに勤める女性の手を、無理やり自身の下半身に触れさせようとしたもの。
男性職員は該当のコンビニエンスストアに頻繁に訪れていたようで、女性従業員とは顔見知り。終始笑顔で対応していましたが、当該行為に女性従業員は手を振りほどき店舗の奥へ逃げ込んだそうです。
女性従業員はコンビニエンスストアのオーナーに相談をし、オーナーから男性職員の上司へ連絡。男性職員の上司がコンビニエンスストアを訪れて事情を聴いたところ、上記のセクハラ行為について確認をしました。
この判例からいえること
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上記のセクハラ事例は、客と従業員の立場関係で行われたことで、女性が終始笑顔で対応していたのは、お店側の今後を考えてのことだったそうです。
職場でのセクハラと、上記のセクハラの立場・地位を濫用している図式がとても似ています。上司が部下に、客が従業員になど、心理的な面で相手の要望に対して「失礼があってはいけない」「断りづらい」と感じる場面は少なくありません。
冒頭で紹介したとおり、セクハラは相談がされづらく被害者が声を上げづらい傾向があります。
本項目のセクハラ事例は、直属の上司であるコンビニエンスストアのオーナーに助けを求められたから良かったですが、セクハラ加害者がコンビニエンスストアのオーナーだったら同じように女性は声を上げられたでしょうか?
今回のように誰かに相談するにしても、収入を得ている職場であることを考えるとなかなか声を上げづらいのではないかと推測します。セクハラは起こってしまってからでは遅く、セクハラが起こらないための環境整備、明確な線引き、ルール設定が必要だと考えられます。
2015年2月判例「大阪海遊館事件」
この判例は、大阪の水族館「海遊館」で、部下の女性に対して性的発言を繰り返した等を理由に管理職2名が出勤停止等の懲戒処分、係長が1等級降格されたのは、被上告人が懲戒権と人事権の濫用で無効だと訴えた事件です。
海遊館はかねてから「セクシュアルハラスメントは許しません!」と題する文書を従業員に対して配布、職場に掲示するなどしてセクハラ防止への取り組みをおこなっていました。
この件でセクハラ被害を受けたのは、派遣会社から海遊館へ派遣をされていた女性従業員と、派遣元の女性社員で請負業務に従事していました。
管理職による部下へのセクハラ発言は1年余りも続き、裁判となり冒頭の処分が決定しました。
この判例からいえること
大阪海遊館のケースは、身体的な接触がなくセクハラ発言だけで処分が決定しています。
今回の件はセクハラ発言の内容があまりにも酷すぎたのと、1年余りにわたって繰り返しセクハラ発言によるセクハラ行為がおこなわれていました。
セクハラ発言に対して、女性従業員が明確な拒否の姿勢を示さなかったから、発言を嫌がられていない・コミュニケーションとして捉えられていると管理職の男性は認識していたようです。
しかし、女性従業員は明確な拒否の姿勢を「示さなかった」のではなく、「示せなかった」が正しいでしょう。拒否をして人間関係が悪化するのではないかと懸念したためです。
この部分は、前段の判例「加古川市の男性職員によるセクシュアルハラスメントの事案」と共通している点ですね。
職場でのセクハラが表面化しづらい問題点がここにも表れています。職場は仕事をする場所で、働く人それぞれが収入を得るために必要な場所です。
セクハラ防止文書の配布や掲示をしていても、こういった事案は起こり得ます。
従業員に注意喚起をしている、マニュアルを渡したで終わらせず、発信を続け、従業員との面談を行うなど、セクハラ防止に対する継続的な活動が必要です。
矢野事件
矢野事件はセクハラのメルクマールになったとされる事件です。矢野事件の呼称は「京大矢野事件」「京大・矢野事件」「京都大学矢野事件」「矢野セクハラ事件」「京大元教授セクシュアルハラスメント事件」とも呼ばれています。
矢野事件はセクハラと呼ぶには易しすぎると感じるほど、複数の女子学生や女性秘書に対して、長年セクハラ行為を繰り返しおこなわれた事件です。
また、矢野事件とは『甲野乙子事件』「A子事件」「B子事件」「C子事件」「D子事件」などの事件・総称で使われています。
矢野事件の当事者である矢野暢元教授は、1993年当時に東南アジア研究の世界的権威でした。内容を要約すると「秘書の仕事は添い寝も含まれる」などの発言、センター長である職務を濫用した心理的な圧力、罵声と暴力による性交渉などです。
矢野暢元教授は、東南アジア研究の第一人者で実質的人事権を持っていました。発言の影響力は高く、将来研究者を目指す若者にとってもかなり影響力のある人でした。
矢野暢元教授の意向に背けば解雇、推薦妨害、学会追放などの不利益が学生や秘書に対してあると発言もしていて、セクハラの多くの定義に当てはまります。
この判例からいえること
セクハラといってもさまざまな内容のものがあります。事の大小はまったく関係なく、セクハラ被害を受けてしまった人にとっては、一生残る心の傷を負ってしまうかも知れません。
先に挙げた「加古川市の男性職員によるセクシュアルハラスメントの事案」「大阪海遊館事件」にも共通する、職場や組織での立場・関係性はセクハラを考える上でとても大事なポイントです。
職場や組織での立場・関係性を濫用したセクハラは、パワハラ(パワーハラスメント)も含まれるでしょう。
以上の判例を見て、セクハラに対する認識が代表的な判例によって変わってきたことがわかります。表面化しづらい嫌がらせだからこそ、公的な例を見ることによって自分自身に置き換えて考えることがしやすくなったとも言えます。
まとめ
セクハラと認定される行為や、代表的な判例、気を付けたいポイントなどを見てきました。
日本国内でセクハラは広く認知され、ここ20年ほどでセクハラ防止に努める環境は整備されてきていますが、本記事で紹介した以外にもセクハラ事例はまだまだあります。
個人にとっても何がセクハラに当たるか認識を日々新たにして、かつ組織としてもその防止策の徹底が望まれます。