これからの働き方を考える(自己紹介に代えて)

2016年、わたしはすべての夢が破れ、とある施設の巡回警備員をしていた。巡回先は24時間営業だったことから、生活は不規則極まりなく、心身の調子も優れない日々が続き、いつしかそれが当たり前になっていった。ただそれ以上につらいのは、自分が自分の将来にいかなる期待も持てなかったことである。

「どうしてこうなったんだろう?」
「このままでいいんだろうか?」
「なにか、この人生に変化を起こさなくては……」

過重な労働、そして年齢は30を超えて手取り月給は20万円にも届かない。新卒で入社した零細出版社のほうがはるかに年収は高かった。「おれはいったい、どこで道を誤ったんだ?」

ポイント・オブ・ノーリターン

どこが不可逆地点だったのか、思い至るところはいくつかあった。精神の調子を崩して新卒で入社した出版社を辞めることになったこと、婚約とその破局、東京から地方都市へのUターン……そのどれもが自分の生の否定しがたい劃期として刻まれている。

地方都市へ舞い戻って困ったことは、自分の経歴を活かせそうな仕事があまりにも少ないということだった。日本における出版社の分布の偏りは非常に大きい。正確な統計データではないものの、ざっくりいうと東京が9割、残り1割が関西圏といったありさまだ。その他の地方都市には、ローカルな雑誌・広告を発行する編集プロダクションがわずかに残されている。自分はわずかばかり経験を積んだ編集、ライティング業務の経験を活かした仕事をしたかった。でも、そのような仕事はついぞ見つからない。

順調に減っていく預金残高を眺めては焦燥に駆られ、わたしはひとまず巡回警備員となって糊口を凌ぐことを決めた。

転換点

誤解のないように申し添えておくが、わたしは警備員という仕事を低く見ているつもりはない。

警備員というと「誰でもできる仕事」と思われている節も正直にいってあると思うが、暦年の猛者たちは普段から視野を広くもっており、またトラブル発生時には的確な状況判断力、決断力を発揮することも稀ではなかった。それは誰にでもできる仕事では決してない。ただ同時に、将来の生活設計を考えるうえで収入、労働時間、環境といった側面においてかなり不安定であること、将来性に期待できないことは事実としてある。

警備員をつづけながら、わたしはどうにか自分の新しいキャリアを見つけ出そうとしていた。

連絡と岐路

ある日、某出版社から「うちで働かないか」という誘いの連絡がきた。一時期、わたしはフリーのライターとして、その出版社の書籍制作に携わったことがあり、その縁での誘いだった。と同時に、わたしは別の企業の採用面接も受けており、どういうわけか順調に選考は進んでいた。

出版社での仕事は「編集職」だった。紙の編集は経験もあり、その出版社の働き方についても外部からとはいえ相応に把握もしていた。一方、採用面接を受けていたのはweb系の企業で、主にサイト制作と改善がメインの仕事となる。まったくの未経験だった。それでも人手不足が背景にあり、またこれまでの紙ベースでの編集の経験も活かせなくはない、ということで無事内定をいただくことができた。出版かwebか、それが問題だ。

悩みはしたが、結局わたしは未経験の道を歩むことにした。今後の可能性を考えれば、紙ではなく、webのほうに可能性があるように思ったのもあるが、最後は勘、そちらの道のほうがおもしろそうだと感じたということに尽きる。

転職と転職

web系の企業に就職してから慣れない仕事に悩むことも多かったが、次第に仕事のコツ・ポイントも掴めるようになり、またこの仕事のおもしろさも感じるようになった。「仕事のおもしろさ」……長らく経験したことを忘れていた感情だった。

5年ほどそこで働き、幸いにして相応の結果を出すことができ、そうしてまた新しいチャレンジをするべく、職種は同じではあるものの、しかし業界はまったく別の企業へ転職をすることにした。提示された年収は十分に満足がいくものだった

仕事と偶然性

……前置きが長くなりすぎました。当サイト「1億人のライフワーク」の運営者・管理人でございます。上で簡単に自分の経歴をエピソードを交えながら紹介させていただきました。

もしかしたら「自慢」のように受け取られる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、どう考えても自慢できるようなことではありません。自分は元々キャリアというものを深く考えてはおらず、その場限り、自分の興味・関心が赴くまま、行きあたりばったりに生きてきた人間だと思っています。ただ労働をつづけていくなかで、少しずつ自分の人生を設計すること、自分の働き方をデザインすることの重要性に思い至りました。そこにあるのは、自分の人生をコントロールするのは自分自身であるという信念のようなものです。この信念があることで、自分はより自由になれたと考えていますし、どうやっていでも生きていけるという自信がつきました。

とはいえ、この信念が形成されたのは、たまたま自分にあった仕事を見つけることができ、周囲の人からも認められる経験を積み重ねることができたからに違いありません。信念があったから上手くいったのではなく、それなりに上手くいった経験があったからこそ、このような自己肯定を基礎に持つ信念を形成するこができた。すべては偶然の賜物です。では、いま上手くいっていない人は、このような信念を持つことができず、ずっと上手くいかないままなのか。それは違うとわたしは考えています。

計画的偶発性理論」という理論があります。スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授らが提唱した理論で「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」というのが、この理論の第一テーゼです。これだけだと「やはり個人のキャリアは偶然に左右されていて、主体的なキャリア形成は難しいのではないか」と思われるかもしれません。でもこれも違う。

計画的偶発性理論の第二のテーゼは「偶然を計画的に設計し、自分のキャリアを改善する」というものです。わたしたちはたしかに偶然に左右される。けれども、その偶然をより良い方向に、ある程度コントロールすることもできるというのがこの理論のコアにあるものだとわたしは考えています。チャンスを得るための偶然を引き寄せつためには、次の5つの行動特性があるとクランボルツ教授は提唱しています。

  • 好奇心(Curiosity)
  • 持続性(Persistence)
  • 楽観性(Optimism)
  • 柔軟性(Flexibility)
  • 冒険心(Risk Taking)

このような特性を持つことで、自身の仕事(ひいては生活)を劇的に改善させることになるのではないかと思います。物事に好奇心を持ち、簡単には諦めず、物事をポジティブに受け止め、こだわりを持たず、少々のリスクは引き受ける覚悟を持つこと、そしてさらに付け加えるなら「変化を恐れない」ことによって、自分の生活を好転させるきっかけになるのではないか。

ただ、その上手なやり方を知らずにいて、自分にあった環境を見つけ出せずにいる方が多いのではないかとも感じています(自分自身がそうでした)。

上記のような考えのもと、少しでも皆様の生活を好転させるきっかけ、後押しになればと思い、このサイトを作成することにしました。理想の仕事と働き方を求めるのは決してわがままではなく、わたしたちの権利です。その権利を皆が存分に行使できる世界をつくることの一助になれば幸いです。